社長の自叙伝

社長の自叙伝
2016年12月11日

株式会社鬼丸 代表取締役 鬼丸正之 

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前触れもなく訪れる不況は中小企業にとって脅威であると同時に、時として企業を成長させるきっかけにもなる。愛知県大府市にある株式会社鬼丸は、プラスチック加工を生業とする町工場。2008年のリーマンショックを機に、ある新しい事業を創造した。そのストーリーに「サムライ日本プロジェクト」の安藤竜二が迫った。

二度の危機を乗り越えて

安藤竜二(以下安藤) 株式会社鬼丸は鬼丸さんが創業されたんですか?

鬼丸正之(以下鬼丸) 創業は1977年、私が12歳の時に、父が「鬼丸工業所」として立ち上げました。当時は鉄工業の工場。私は20歳で専門学校を卒業し、2年半サラリーマンをした後、バブル期で忙しかった工場に入ることになりました。

当時、溶接など鉄工所の技術を活かして、窯業(ようぎょう)にも携わり、タイルなど陶器の原料を作る機械のメンテナンスをやらせてもらっていました。多治見、瀬戸、瑞浪など窯業の盛んな町をはじめ、青森から九州までを飛び回って、現場仕事の毎日。これが全国でも我々にしかできないオンリーワンの仕事でしたので、まず仕事がなくなることはないだろう、そう思っていました。

しかし、バブルがはじけたことで、事態は急変。徐々に仕事が減ってしまったんです。日に日に暇になっていく工場で「このままではマズイ」と、次の一手を考えました。そこで、今まで外注に任せていた仕事を自社工場でまかなえるようにと、思い切って旋盤やフライスの機械を導入。できる仕事の幅を広げ、スタッフも抱えることに。こうして業態を変化させたことで、何とか潰れずに乗り切れたんです。現在メインでやっているプラスチック加工もこの設備投資がきっかけでした。

安藤 鬼丸さんはいつから社長に?

鬼丸 2000年に跡を継いで代表になり、目指したのは社員に隠し事のないクリアな会社。社員には売り上げを包み隠さず教え、毎年、毎月、毎日の売り上げ目標を共有しました。そして、それを達成できたら、ボーナスとして還元するという、モチベーションを上げて取り組める仕組みを作りました。

バブル崩壊の経験から、「いずれ仕事はなくなるもの、いつでも違う業態になる覚悟をしておけ」「どうしようもなくなったら、皆でラーメン屋やるぞ」と社員には冗談半分に言っていました。そういった慎重な考えがあるのと同時に、お客さんの求めるものを、求める品質と納期で確実に収めていく、つまり当たり前のことを当たり前にやっていけば、きっと仕事はなくならないはずだという思いもありました。

2008年9月、リーマンショック。その後しばらくは仕事がありましたが、年が明け、本当に仕事がなくなってしまったんです。1月の売り上げは今までの3分の1に。苦渋の決断でしたが、3月には給料カットも断行。それでも誰一人辞めることなく、一緒に頑張ろうと付いてきてくれました。

仕事がないので、私は独学でホームページ制作を開始。もともとパソコンは好きでしたが、ウェブ制作は初挑戦でした。さらに、今までできなかった工場のペンキ塗りや、掃除、雑用に明け暮れる日々。しかし、そのうちに掃除をするところもなくなってしまった。今までは、来る仕事に対してのみ応えるというスタンスでしたが、人生で初めて営業回りも。しかし、なかなか手ごたえはなく……。このまま1年続けば、会社は持たない。ストレスで体調も悪く、不安で涙を流すこともありました。

 oni05安藤 絶望の淵から這い上がれたきっかけは何だったのですか?

鬼丸 再投資でなく、今ある人材・設備・技術で新しいことはできないか。ある日のミーティングでスタッフの一人が、友人の結婚式のウェルカムボードを作ったことがあると言ったのです。ウェルカムボード? 恥ずかしながら私はその名前すら知りませんでしたが、とにかく彼に作らせてみました。それは発泡スチロールを半田ごてで溶かしてデザインしたものだったのですが、制作時間がかかり採算が合わない、とボツに。しかし、このスタッフ、実は老後に習字の先生になるのが夢で、書道の師範の免許を持っていたんです。この「書」を活かして新しい展開ができないか。筆でメッセージを書いた和風のウェルカムボードはどうだろうか。ボードを製作する技術ならお手のもの。希望の光が見えてきたようでした。

人との出会いをチャンスに変えて

安藤 意外にも身近に突破口があったんですね!

鬼丸 2009年7月に大手結婚情報誌に広告掲載を決め、それに向けて動き出しました。立ち上げた屋号は「鬼丸工房」。製作はスタッフに任せ、私はそれをホームページにアップする。成功に繋がるかは分からない。でもやるしかありませんでした。

7月20日、広告掲載と同時に「鬼丸工房」が始動。しかし、待てども注文は来ず、やはりダメだったかと不安は募るばかりでした。結婚式場のプランナーさんにも商品を見てもらいましたが、その場では評判は良くても、なかなか話は進みませんでした。

8月に入ったある日、初の注文がウェブから舞い込んで来ました。それは喜びというよりも驚き。「本当に来た!」とにわかには信じられず、「本当にいいのだろうか」という気持ちにもなりました。弊社にとっては初の「B to C」のビジネス。自分たちの付けた値段でモノが売れた瞬間でした。

その後、徐々に問い合わせ・注文が増え、鬼丸工房の名が広がっていくのを感じられました。その中で、どうやったら商品に付加価値をつけられるだろうと、素人なりにやれる限りのことはやろうと決意。おめでたい席に使われるものだから、筆は熱田神宮で祈祷してもらい、商品発送の際には、手書きのメッセージカードを同封。外箱には運送屋向けに手書きの注意書きを貼ることにしました。

ありがたいことに、購入された半数以上の方からお礼の電話やメールをいただけます。また、実際の商品を見てから、ご両親へのサンクスボードなど、違う商品を注文してくれる方も多いんです。ウェルカムボードを買っていただいた新婦さんのお姉さんが、ご自身の結婚式でも注文していただけたり、プレゼントとして受け取った方が、お子さんのご誕生の命名書を注文していただけたり。人と人が繋がっていく様子も見られるんですよ。

oni06安藤 事業開始から1年、今では大手ウェディング施設との繋がりもでき、事業が軌道に乗ってきた感がありますね。秘訣は何だったんでしょう?

鬼丸 もともと工場の人間なので、出会う人や情報は限られていました。このままじゃいけないと思い、2005年頃から、積極的に異業種交流会に参加するようになりました。結局売るのも買うのも「人」ですから、人との出会いは大切だなとつくづく思いますね。この時出会った人が、今の事業で繋がっている、ということもあるんですよ。

大切な出会いといえば安藤さんもその一人(笑)。地元の中小企業を巻き込んでカッコいいプロジェクトをやっている人がいると知って、注目していたんです。ある日、安藤さんのブログを拝見したら、「今日東浦でやるイベントに参加します」と書いてあって。すぐさま「今から行きます!」とコメントを書き込み、その日の予定を蹴って、現場に直行。ご挨拶をさせていただき、「どんな振る舞いをされるのか」と、一挙手一投足を2メートルの距離で伺っていました(苦笑)。この日、安藤さんには多くの方を紹介していただき、実際に仕事にも繋がった出会いもありました。

安藤 そんな報告を聞いて、この人は自分で道を切り開いて、チャンスを掴みに行っている人だなと思って、ラジオ出演のお誘いもさせていただきました。順調な時は、自然と人と人が繋がっていくから不思議ですね。ブログを見て実際に会いに行く行動力、謙虚さ、絶やさない笑顔。鬼丸さんのその人柄が、今回の事業でも核になっていると感じます。それでは今後の展開をお聞かせ下さい。

鬼丸 ウェディングのみに留まらず、誕生や入学・卒業、結婚記念日や還暦など、様々な人生の節目で素敵なメッセージをプレゼントするお手伝いをさせていただきたいです。つまり、私は人の「想い」を伝える代弁者。ご依頼された方が、相手のことをこんなに想っているんだよ、ということをしっかりと伝えながら、「モノよりもコト」でサプライズを提供できれば素敵ですね。

今後は全国のアーティストの皆さんとの繋がりをもって、お客さんとアーティストの架け橋になれたら、と考えています。その具体的な展開として考えているのが、ギャラリーの設立。我々にはアルミ、ステンレス、アクリル、プラスチック、木材などを加工し、額縁などをオーダーメイドで作る、ものづくりの技術がありますから、アーティストにとっては、芸術活動に役立つ商品が揃う・発注できると同時に、ギャラリーが作品展示・販売、お客さんとの知り合いの場になれば。また、お客さんにとっては、理想の商品をカタチにするアーティストとの知り合いの場になればと思っているんです。考えるだけでワクワクしてきますね

 辛い時期もありましたが、前向きに努力を続けていくことで、道が開けるのではと実感しています。今後も時代の波の中で臨機応変に頑張っていきます!

oni04鬼丸正之
株式会社鬼丸 代表取締役


創業以来、2度訪れた不況の危機に新規事業を立ち上げることで、乗り越えてきた。ものづくりの技術を活かした、記念日を演出するオリジナルアイテムで顧客にサプライズを提供。アーティストと顧客の橋渡しとなるべく、営業活動に奔走。2010年3月中小企業庁が行う「経営革新計画」の県知事承認を取得。

株式会社鬼丸
〒474-0001愛知県大府市北崎町清水ヶ根133-5 
TEL:0562-47-8456 FAX:0562-46-7220 
URL http://www.onimaru.jp

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