社長の自叙伝

社長の自叙伝
2019年02月15日

石川鋳造株式会社 代表取締役社長 石川鋼逸

安心安全でおいしいお肉を食べてほしい。そんな造り手の「想い」を込めた「重い」フライパン。鋳物の魅力を最大限に引き出した「おもいのフライパン」を創り上げた石川鋳造社長、石川鋼逸のものづくりに叩き上げブランディングプロデューサー安藤竜二が迫る。

安藤竜二(以下安藤) まずは創業の歴史から教えていただけますか?

石川社長(以下石川) 創業以前の家業として、もともとは碧南市の棚尾で運送業や精米業などを営んでいましたが、これからやって来るものづくりの時代には製造業がいいと、曾祖父である石川市郎が友人の鋳物屋で修行をした後、昭和13年に石川鋳造所を創業したのが始まりです。大同製鉄の指定工場、平岩鉄工所の協力工場、大隈鉄工所の主要外注工場として織物機械部品を中心に委託製造をしていました。その後、高度経済成長で繊維に代わって車の生産が増えると、昭和33年からは自動車部品の製造が始まりました。しかし、ハイブリッド車や電気自動車が普及していく中、弊社における自動車部品の生産が減少していくのは目に見えています。

鋳物の魅力を発揮する 「おもいのフライパン」 

安藤 そこで今後の生き残りをかけての商品開発が始まるのですね。

石川 はい。自社製品の強みを活かし、自動車部品に代わるものはないか。生き残りをかけて社内にプロジェクトチームを作ったのが、私が社長に就任した4年後の2008年。きっかけとなったのは、やはりリーマンショックです。時代の流れに左右されない、自社の強みを活かせるものを開発すべきだと強く感じました。

安藤 社運をかけたプロジェクトのチームをまとめていくのはとても大変だったと思います。

石川 それには自分が野球をしていた時の経験が活かされていると思います。夢を追いかけること、やり抜くこと。そのためには目標設定をしっかり立て、それに向けて何をするかを明確にしなければなりません。大学では準硬式野球で全国2位になった我々のチームでは、同級生16人のうちの半数が甲子園出場経験があるメンバーでした。当時強豪だった沖縄水産高校出身の仲間から名将と言われた栽監督の指導を伝え聞くことができたのも今となっては財産です。大学卒業後、父親からは30歳までは好きなことをやって、それから会社に戻って来いと言われていたので、在学中に教員免許を取得し、母校で高校野球の監督をするために異動のない非常勤講師として7年間勤めました。チームプレーである野球を通して、皆で力を合わせて一つの目標に向かっていくことの大切さを、選手としても監督としても経験させてもらいました。また弊社の企業理念は「和」です。家族のように仲良く、何をやるにも力を合わせること。そうしないと上手く進まないと思っています。

安藤 会社にはチームプレーの素地ができていたのですね。最初からフライパンを作ろうと決めていたのでしょうか?

石川 いいえ。ただ、我々は鋳物屋です。飲食業などの異業種に出るのではなく、鋳物屋である我々がやれること、その特性や技術、品質を活かせることを考えようと言いました。そこでまずは鋳物の良い点と悪い点を出し合いました。良くないのは重いこと、それに尽きます。その一方で頑丈なこと、熱伝導が良いこと、蓄熱温度が高いことが利点となります。そして最も特徴的な熱伝導を活かせるのはどんな商品なのか議論を重ねてたどり着いたのが調理器具で、中でも一番用途が多いだろうフライパンを造ることにしました。しかし鉄鋳物のフライパンはすでに人気ブランドがあり、鋳物を扱う企業が様々な自社製品を造っています。後発である我々が造るなら、弊社にしかできないことをやるしかない。そこで石川鋳造の鋳物の強みを改めて考えた時に浮かんだのが、「石川鋳造さんの鋳物は肌がキレイですね」というお客様たちからの言葉。鋳肌がキレイだという特徴があるからこそできるのが無塗装です。それなら、世の中にまだ出回っていない無塗装のフライパンを造ろうということになったのです。

安藤 ほとんどのフライパンは焦げにくいコーティング、鉄フライパンでは錆びにくい塗装が施されています。それをあえて無塗装にすれば、大きな差別化になります。

石川 はい。一般的なフライパンのほとんどは塗装されています。それは錆びない焦げないといった利便性だけでなく、見た目をキレイにするためでもあります。逆にキレイであれば塗装をする必要はなく、我々が開発した「おもいのフライパン」は、フライパンの表面をキレイに仕上げられる技術力があることの証でもあります。しかし我々が無塗装にこだわるのは、そこには様々な利点も生まれるからです。塗装をすれば熱伝導率は下がり、鋳物最大の利点が弱まってしまいます。また塗装は1〜2年で剥がれ、やがて錆びて使えなくなってしまいます。その塗装材からは有害物質が出る可能性もあるとされています。「食事をつくる道具にそんなことがあっていいのか、人の口に入る食べ物は安心安全でなくてはいけない」。やはり無塗装のフライパンしかないと思いました。もちろん、無塗装でも商品としての完成度を追求できるのは、鋳肌がキレイだという我々の強みがあるからこそだと思っています。

安藤 調理器具による有害物質が体内に入る危険性は見逃せません。無塗装の様々な利点も目からうろこですね。残る課題は「重さ」です。

石川 はい。しかし軽くしたところで、すでに「鉄のフライパンなのに重くない」ことをウリにした商品もありました。また安易に軽くすれば、熱伝導の良さや蓄熱温度の高さなど、鋳物本来の魅力が損なわれてしまいます。それならば思い切って自分たちが良いと思うもの、こんなのがあったらいいなと思うもの、使う人が笑顔になれるものを形にしてみようということになりました。商品の開発中、いろんな店に出かけては食べている人たちの様子を観察してみると、最も嬉しそうに食べているのが肉料理でした。それなら、大好きなお肉をさらにおいしく食べられるよう、世界で一番お肉がおいしく焼けるフライパンを目指そうと。鉄板焼専門店に行けば分かるのですが、高級店ほど鉄板は分厚くなります。その厚みがお肉をおいしくしているのだと思い、試作してみるとやはり厚くするほどおいしくなりました。あとはどこまで厚くできるか、重さとのバランスをどこで折り合いをつけるかです。大きいほど重くなるので、まずは小さめの20センチのフライパンから造ることにしました。目標は肉がおいしく焼ける厚みで、なおかつ力の弱い女性でも扱えることでした。

安藤 このフライパンは鉄製だから重いのは当たり前なのですが、他の製品に比べてすごく持ちやすいですよね。

石川 ギリギリまで厚くしたフライパンを、どこまでその重さを感じさせないようにするかが、次の課題でした。他の様々な鉄製フライパンを手に取ってみて分かったのは、軽量化を重視するフライパンは取っ手が薄いため、持ちにくい上に握っているとすぐに手が痛くなってしまうものが多いということ。結果として、軽くしているはずなのに重く感じてしまう。これには取っ手の形状が大きく関係しています。デザインや重さだけでなく、長さや取り付ける角度も重要で、これらのバランスがすべて整った時に、「女性が持っても痛くない」フライパンになります。本体と取っ手のベストなバランスを見つけるまで1ミリ単位で角度を調整し、設計・試作を繰り返しました。こうして完成した弊社のフライパンは、他の軽いフライパンと比べても重さを感じにくく、持ちやすいはずです

お肉が世界で一番、おいしく焼ける  

安藤 このフライパンの威力は、やはりお肉を焼いた時に一番良く分かります。

石川 普通のフライパンやホットプレートでは絶対に出ない味です。フライパンに厚みがある分だけ高温で熱伝導も良くなるため、ただ表面に焼き目が付くだけでなく中まで火が通ります。早くに焼き上がるのでお肉は硬くならず、肉汁が外に逃げずにジューシーさをキープしてくれるのです。実際に使った人たちからは「お肉を焼くと本当においしい」「フライパンだけでもお肉の味が変わるんだ」と評価してもらえてとても嬉しいです。お肉の焼き加減には好みがあるかと思いますが、私の経験から言うと1センチ焼くなら片面1分、2センチなら片面2分と、1センチ毎に片面1分の焼き時間を目安にすると良いと思います。錆びやすい鉄鋳物のお手入れは面倒と感じる人がいるかもしれませんが、鋳物を初めて使う方々からも「すぐに慣れるし、大した手間ではない」と言っていただけます。無塗装だからコーティングが剥がれる心配もなく、簡単なお手入れでずっと安心して使えます。そして使うほどに油がなじみ、黒く艶が出てきます。そうなればもう錆の心配もほとんどなく、むしろ通常のフライパンよりも使いやすくなっているはずです。だからお肉を食べる時の特別なフライパンとしてではなく、目玉焼きでも野菜炒めでも、どんどん使って欲しいです。実際に魚や野菜、焼きそばなど何を作っても焦げ付かずにおいしくなると言っていただけます。

安藤 無塗装によって安心安全とおいしさの両方を得ることができる。一生ものの道具として食卓で活躍してくれそうです。

石川 オーブン料理にも使えるよう家庭用のオーブンに入るサイズで、そのまま食卓に出せるデザイン性にもこだわりました。グラタンやアヒージョなど料理のバリエーションが広がることで、料理する人の思いもつなげたいと思っています。この「おもいのフライパン」には3つの「おもい」があります。我々作り手の想いと、お客様である使い手の思い、そして商品の重い。重いことで、おいしく食べたいという思いを届けることができるのだから、「おもい」と名付けてもいいのではないかと。

安藤 鋳物の重さを認めて、それを魅力にしたからこそのネーミングですね。今後の展望を教えて下さい。

石川 新事業としてスタートした「おもいのフライパン」ですが、利益だけでなく「いいものを造ること」が重要だと改めて実感しています。どうせ造るなら、おいしいものが作れる調理器具にしたい。これからも、世の中にあったらいいな、自分が欲しいなと思うものを開発していきたいです。例えば、さらにお肉に特化した鉄板や、揚げ物もおいしくなる万能鍋など。またフライパンもサイズ展開することで、ピザが焼けたり、もんじゃ焼きを楽しめたり。妥協のないものづくりと、今までにない商品開発で、「いつものお肉がこんなにもおいしくなるなんて。」その次なる嬉しい驚きを届けていきたい。そして「石川鋳造はいいものをつくっている」と知っていただきたいです。

石川鋳造株式会社 代表取締役社長 石川鋼逸
高校野球では投手として地元の弱小チームを県内ベスト16に導き、大学では準硬式野球で全国2位に。卒業後は母校の野球部監督を7年間務めチームを県内ベスト4まで導いた。30歳で石川鋳造に入社。2004年に4代目社長として就任してからも、各大会で優勝する強豪チームとなった石川鋳造野球部を率いる。

石川鋳造業株式会社
〒447-0859 愛知県碧南市中松町一丁目12番地
TEL:0566-41-0661/FAX:0566-41-2580

 

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