社長の自叙伝

社長の自叙伝
2017年06月19日

株式会社川畑瓦工業 代表取締役 川畑博海

 鹿児島県のシンボル桜島。そこから陸続きにある町、垂水市で川畑瓦工業は誕生した。セメント瓦のメーカーとしてスタートした同社が、バブル崩壊後、縮小の進む住宅業界でどうやって生き抜く術を見つけ出したのか。叩き上げブランディングプロデューサーの安藤竜二が、川畑瓦工業の3代目、代表取締役の川畑博海に訊く。

川畑瓦工業の歩み

安藤竜二 (以下安藤) まずは会社の成り立ちを教えてください。

川畑博海(以下川畑) 左官業をやっていた祖父が取引先から瓦工事を勧められたのがきっかけです。当時では珍しかった手動式セメント瓦製造機を譲り受け、瓦のメーカーとして1963年に川畑瓦工業ははじまりました。
        
安藤 日本が高度経済成長を迎えた頃ですね。

川畑 そうですね。私どもの会社がある鹿児島県垂水市でも住宅がどんどんと建つ時代でした。ただ、事業は順調に進んだわけではありません。創業して間もない頃、父の結婚式が終わった後、創業者の祖父が交通事故で他界。そうして23歳にして父が事業を引き継ぐことになりました。右も左も分からなかった若輩者がいきなり代表になるわけですから、それは苦労の連続だったと思います。

安藤 工場内を見るとプレス機がたくさんあります。当時はかなりの活気があったのではないですか。

川畑 瓦の製造は創業から右肩上がりで伸びていたと聞いています。2001年の最盛期には、社員は23名いました。8台あるプレス機が稼働し、敷地内には生産した瓦が高く積み上げられ、大型トラックが忙しなく出入りする。私も勤務していましたからはっきり覚えていますが、本当に活気のある毎日でしたね。しかし、ご存知のようにバブルは弾けて時代は変わりました。1997年、日本の新設住宅の着工戸数は全国で163万戸を数えていましたが、リーマンショックも大きな出来事で、私が会社を継いだのはその翌年です。2010年には、新設住宅の着工戸数は最盛期のおよそ半分に減少してしまいました。

社長・川畑博海

安藤 大変な時期に事業を継いだわけですが、どのような取り組みを行いましたか。

川畑 メーカーからリフォーム会社への転身です。私たちはセメント瓦のメーカーとしてスタートし、セメント瓦の製造と販売、そして新築住宅の瓦工事を中核事業として成長してきました。ただ、セメント瓦の製造は減少する一方でしたし、工事もハウスメーカーの下請けですからスタンスとしては受け身です。「仕事を待っているばかりではいけない」と考え、屋根工事の元請けとして成長する道を模索しました。「じいちゃんと父さんが築いた会社を辞めるわけにはいかない」その一心でした。
 
安藤 これまではハウスメーカーがお客様でしたが、今度は一般の消費者となる。するとサービスも見られ方も変わってきます。職人仕事を行う同社にとって、簡単にいかなかったのではないですか。

川畑 まさにその通りです。真剣に見つめ直したのは2012年頃ですね。ある日、工事中のお客様から電話が入ってきました。「HPには『お客様のために』とか書いてあるけど、これはどういうことだ!」というクレームでした。事情を聞くと内容はボタンの掛け違えのようなものでしたが、お客様がご立腹なのは事実。低頭平身で詫び、工事を終えた後も謝罪に伺いました。すると「こっちも言い過ぎたし悪かった。でも、川畑さんに頼んで本当に良かった。ありがとうございます」と言っていただいた。その時です。ようやく気付かされた気分でした。嬉しそうに屋根を見つめる姿を見て、「私たちはエンドユーザーから『ありがとう』をいただかなくてはいけない」と痛感しました。

安藤 なるほど。それからどういったことを行ったのでしょう。

川畑 どうしたら「お客様から『ありがとう』をいただけるか」と真剣に考えました。もちろん、私だけでなく社員全員でアイデアを出し合いました。理念や取り組みを私が押し付けるのではなく、全員で考えて共有することが大切だと感じたからです。挨拶や身だしなみなど、当たり前のことを変えるのはもちろん、今では朝礼で経営理念を唱和し、社内勉強会も頻繁に開催。先代の頃は「そんな暇があったら現場に行け!」と叱りつけられるような会社でしたが、決して父が悪いのではないと思っています。職人仕事とはそういう時代だったのです。でも、今となっては通用しない。現在は工事後、お客様にアンケートを記入いただいていますが、お褒めの言葉をいただく事も多く本当に嬉しいかぎりです。

川畑瓦工業の商品力

安藤 川畑瓦工業が持つ強みは何でしょう。

川畑 今は自信を持って言えます。『職人』です。私たちは『誇り高き職人集団』と掲げています。私たちには、瓦工事を中心に毎年約250件の工事実績があります。どの工事も技術を要する手仕事で、1~2年で身に付くものではありません。そうした技術に加えて、先ほど申しました気持ちの良い挨拶やコミュニケーションができること。それが現在に求められる職人の姿ではないでしょうか。私が代表になってから人材教育に時間を費やし、近年は新卒社員の採用にも力を入れています。キャリアプランを設け、職人を育てて、安定して働ける環境を生み出すことに努力しています。

安藤 時代と共に求められる技術も変化するもの。変化を受け入れて柔軟に対応してきたのは見事です。

川畑 そもそも家を建てる際、最初に行うのが瓦工事です。日本の伝統的な工法である在来工法(木造軸組工法)は、土台木材の上に柱を立てて、柱と柱の間に筋交いと呼ぶ部材を斜めに入れて進めていきます。瓦の重みを加えることで、組み込まれた木材が固く食い込み、堅牢な骨格が完成する仕組みです。大地震の時テレビで倒壊した家屋を目にしたことがあると思いますが、あれは瓦の重みによるものではありません。古い住宅で耐震構造になっていない家が倒壊しています。瓦は強固な住宅を造る上で欠かせない部材なのです。一方、時代の変化につれて、軽量で耐久性のある瓦も登場しました。金属の屋根材も好まれています。どのような屋根材の工事でも対応できる技術を私たちは持っています。この地で半世紀以上仕事をさせていただけるのは、私たちの技術力を評価いただいている証拠だと考えています。お客様から一つでも多く「ありがとう」をいただけるよう、これからも努力していきたいですね。

川畑瓦工業の未来

安藤 今後の目標を聞かせてください。

川畑 屋根だけでなく、外壁のリフォームや塗装も行うようになりました。実は大工出身の職人もいて、屋内のリフォーム工事のお声がけをいただくことも増えてきました。近頃ではユニットバスの付け替え工事や、システムキッチンのご提案をさせていただく事もあるんです。また、技能資格を持つ社員も多く在籍します。お客様のどんな困りごとにも対応できる職人集団にするのが目標ですね。そして、それがすべて自社の社員、自社の職人であること。やはり目の届く範囲にいないと目標を共有することは難しいと思います。「明日、職人をよこして」と、職人を道具のように扱う会社は、残念ながら少なからず存在します。私はそうしたことが許せなかった。だから直接、お客様と仕事ができる体制を構築し、「ありがとう」をいただける会社にしたかった。今では、職人一人ひとりが名刺を持って工事前に挨拶しています。それくらい『誇り高き職人集団』として、堂々と自信を持って働いています。経営理念は「すべてはお客様の『ありがとう』のために」です。少子高齢化が進み、この業界は人材が不足しています。廃業する同業者も増えました。しかし、必要とされ続ける仕事でもあります。縮小市場でも生きる道を模索することは可能だと、私自身が体験してきました。「こんなに素晴らしい仕事があるんだ」と、次の世代に伝えていくことも、地域最大級の規模を持つ私たちの責任でしょう。若い方々に見ていただきたい。そして感じていただきたい。屋根上には心を打つ景色がありますから。

 


  
川畑博海
株式会社川畑瓦工業 代表取締役


 1969年鹿児島県生まれ。高校卒業後に上京。専門学校を卒業後、金属屋根製品のトップメーカー、元旦ビューティ工業に就職し、東京支店販売促進課の営業として活躍する。1994年、帰省して川畑瓦工業に入社。2008年に代表取締役就任。好きな言葉は「行動こそ真実」。曲がったことが大嫌いな誠実な人柄と、厳しく温かい職人集団の頭として会社を牽引する。

株式会社川畑瓦工業 
〒891-2113 鹿児島県垂水市高城784-7
TEL : 0994-32-0712 FAX : 0994-32-1631
川畑瓦工業オフィシャルサイト URL: http://www.kawabatakawara.co.jp

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